たった1人の感染者が地方都市にコロナを持ち込むとどうなるか?《島根で実際に起きた“舞台クラスター”波及騒動》

【文春オンライン】新型コロナウイルスは、感染の勢いが収まらない東京だけの問題ではない。感染者が滅多に出ない地方でも大きな影響を受けているが、特に感染した本人が受ける心理的なダメージは首都圏以上かもしれない。

 一人の女子大生が東京でコロナに感染して帰宅したことで、知事は緊急会見を開き、大規模なPCR検査が行われ、通っている学校は閉鎖。地元では尾ひれが付く噂が広がる……。そんな大騒動がいままさに起きているのが島根県だ。新型コロナをめぐって騒動が起きた島根県出雲市。中央は出雲ドーム(筆者撮影) © 文春オンライン 新型コロナをめぐって騒動が起きた島根県出雲市。中央は出雲ドーム(筆者撮影)

2カ月ぶりだった県内コロナ感染者の発覚

「たった1人のために1000人が検査することになった。その子は無症状なのに! 今、こっちは蜂の巣をつついたような騒ぎになっている」 新型コロナウイルス特集など、最新情報をモバイルで詳しくはこちら PR Microsoft ニュース

 興奮した様子で、島根の知人男性から筆者に電話が入ったのは、7月15日のことだった。

 発端は大きなニュースになった東京・新宿でのクラスターだ。新宿シアターモリエールで6月30日~7月5日の間、全12公演が上演された舞台「THE★JINRO-イケメン人狼アイドルは誰だ!!-」。主催者のライズコミュニケーションは7月15日、公式ホームページで出演者17人、スタッフ8人、客34人の計59人が感染したと発表した。

 その客のうち1人が島根県出雲市に住む10代の女子大生だと判明したのは、7月14日のことだった。

 島根県内でのコロナ感染者は女子大生が25人目だったが、そのうち23人が4月上旬、松江市内のガールズバーで発生したクラスターとその家族という限られた範囲だった。2カ月ぶりの感染者の発覚に、島根県内は大騒ぎとなった。

「島根県の丸山達也知事と女子大生の通う県立大学の学長が同席し、記者会見した。深夜だったが、地元テレビ局によるYouTubeライブに県民はみな釘付けだった」(知人男性)

 7月14日の記者会見の場で、県立大学の学長は同じキャンパスに通う学生と教職員にPCR検査を要請すると表明。女子大生は無症状だったが、指定医療機関に入院することが決定した。

 7月16日に島根県は行動調査の結果、女子大生の濃厚接触者はゼロだったと発表したが、周囲の対策は続いていく。

 まず、出雲市内にある県立大学のキャンパスが閉鎖された。女子大生のアルバイト先のホームセンターと焼き鳥屋は店舗名が公表された上で、自主的に臨時休業を始めた。

 さらに、アルバイト先の従業員や客が続々とPCR検査の列に加わっていった。この時点で「検査人数1000人」と行政関係者が見立てていたという。感染拡大の防止には必要な検査とはいえ、わずか1人の感染に1000人調べなくてはいけなくなるのである。

「大規模検査」となった理由

 感染発覚から5日が経った7月19日、すでに当該キャンパスに通っていた学生と教職員593人の検査は終わり、全員の陰性が確認されていた。また、アルバイト先の従業員、客、東京からの高速路線バスの乗客ら73人も検査を受け、こちらも全員が陰性だった。

 大学関係者に取材すると、キャンパス内には看護師の養成課程があり、今後、医療機関への実習を控える学生もいることから、早々に「全員検査」が決まったという。

 今回の大規模検査について、地元の公衆衛生関係者は複合的な要因を指摘する。

「これまでの感染者の大部分が松江のガールズバーのクラスターで感染したので、住民にクラスターの恐怖が浸透していたことも大きい。それに検査体制も、それなりに増強されていたことに加え、感染者が出たのが2カ月ぶりで余裕があったことも要因ではないか」

「全員陰性」でも広がる反応

 ただ、検査を受けた全員が陰性だっただけでは、女子大生をめぐる騒動は幕引きとはならなかった。出雲市内で話を聞いてみると、その後も対応が続いていることが分かった。

「女子大生のアルバイト先の焼き鳥屋で食事をしたことがある男性が自主的に自宅でこもっている」(60代、女性)

「地元のスポーツ大会開催が今回の騒動で吹っ飛んだ」(70代、男性)

「今回の感染者判明で、自治会の集まりが中止になった」(70代、男性)

「女性と言うだけで、コンビニでレジに並ぶと爺さんがビクッとする」(40代、女性)

 さらに深刻なのが、個人についての噂の数々だ。「アルバイト先のホームセンターでは〇〇を担当していた」「彼女は、大学や周囲には内緒にしたまま東京に出かけていたらしい」「あの子は(県内の)〇〇出身で間違いない!」などと、もっともらしい話がたちまち広がった。

 大学関係者でもない四囲の住民が、見てきたかのように女子大生の素性を語りまくる。しかし、詳しく聞いてみると、その情報に何一つ裏付けはなかった。

「よそからウイルスを持ち込むと大変なことに」

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(安藤 華奈/Webオリジナル(特集班))